●編集終了●聖水紀5(1990年作品)●編集終了●SF小説■聖水紀■(1990年作品)作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所 ロイドはベラを深く愛していたことに急にきずいたのだ。なぜ、俺はフガンが彼女を連れて逃げた時に反応しなかったのだ。自責の念が常にロイドの心を占めていた。過去にさいなまれているロイドは周りが見えていない。 「何者だね」急に聖水騎士団の男がいた。 「聖水への帰依を希望するものです。遠くから参りました」 「それは殊勝な心がけだ。どうぞ、この門をとうりなさい」 聖水神殿への道だった。この門では怪しい者がいないか、常に聖水騎士団が見張っていた。 神殿の前はごったがえしていた。 ロイドは巡礼の一人にたずねる。 「何かあったのですか、この騒ぎは」 「お前さん、何もしらないのか」男は不思議そうな顔をする。 「いえ、私は遠くからここへ着いたところで」 「それなら、しかたがないな。『みしるし』が発見されたのだ。これで新しい時代がくるって、大騒ぎなんだ」 「『みしるし』が」 「そうなんだ。おまけに、今日、我々がその『みしるし』を神殿で拝見できるって訳だ」 聖水神殿に潜入し、聖水プールにたどりついた。 ベラがプールの中で寝ていた。ベラはとても美しく見えた。がここは聖水神殿。信仰の中心地。敵の本拠。人が多くとてもちかずけそうにない。また、この時期では警備も厳重だろう。ベラを目の前にして、ロイドは無念の涙を流す。神殿から退去し、近くにある建物の壁に変化した。誰もロイドにはきずかない。彼は周りに同化する能力をもっていた。 夜になり、人影がなくなった。ロイドは生身にもどった。 ロイドはベラを見付けようと思った。が急に後ろから、声をかけられた。 「これは、これはロイドくんではないですか、それが君の呪術でしたか」フガンだった。 「フガン、俺をどうする気だ」 「そうですね。どうしましょうか」フガンは少し考えていた。 「ベラにあいに来たのでしょう。じゃ、ベラの所まで案内してさしあげましょう」 「なぜ、俺を助ける」 「なぜ、私はこう見えても、血も肉もある人間です。さあ、ついてきなさい」 フガンはロイドを神殿の中央祭壇まで連れていく。 「さあ、早く。ベラを連れておにげなさい。私は消えます」 ロイドは後ろを何度も振り返る。罠ではないかと。が、他には誰もいない。プールにベラが沈んでいた。かわいそうなベラ。そして愛しきベラ。ロイドは思った。 「助けにきたぞ、ベラ」 『が、私はもう、昔の基準では生きてはいない』ベラの目が開き、顔をこちらに向けている。どうしたのだ。が恐れずロイドはつずける。 「ベラ、君を愛している。私の手元に戻ってきてほしい。何よりも君が必要なのだ。そう、私はきずいたのだ」 『もし、あなたが私を愛しているのなら』プールの中、揺らめきながら、ベラはしゃべつている、水の中で。 「君を愛しているのなら、どうするのだね」 『あなたも私と同じように、聖水に同化してほしい』 「君はどうしたのだ」恐れがロイドの心に走った。本当にベラなのか。別の生き物ではないか。 『ロイドようこそ』何かがベラの側に形作られていた。 「貴様は」 『水人だよ』 「きさまが水人なのか。ベラを返してもらうぞ」 『ベラがのぞむまい』 「何をいう」 『彼女は我々にとって偉大なる祖先の記憶をもっているのだ』 「まさか、本当ではないだろうな、ベラ」 「残念、本当よ、ロイド。私は聖水のみもとにいる」 「何があった、ベラ」 「私は人類の記憶を取り戻した。あなた方、人類は聖水に同化します」 死刑宣告を受けたかのように、ロイドの体はふるえた。 『我々はこの地球のすべてを手にいれる』 「何だって、そんなことさせるか」 『むだだよ、ロイドくん、君も人類創成の秘密をしれば、我々に従わざるをえんよ』 「まさか、きさまたち」ある考えがロイドの頭に巡った。 『君の考えたとうりだよ』 「まさか、そんなことが」顔が強張る。 ロイドの頭の中にベラの記憶が想起される。 「やめろ、やめてくれ。こんなことがあつてたまるか、こんなことが、くそ、こんなことなら、俺を殺せ。ベラ、君の手で、お願いだ」ロイドは喚きながら、涙を流していた。ロイドの方へ、聖水プールからのベラの手が伸びていた。何Mの長さに伸びた手が。 やがて、彼の体は溶けていく。 『レインツリーの諸君、表意術でみているだろう』 海に達した聖水は、海水と激しい争いを繰り返していた。水H2Oを分解し、自分たちの組成に組み替えていた。それに対して海、地球の海なるものも戦いを挑んでいた。聖水と海水との境界線は熱をもっていた。蒸発する水が湯気を上らせていた。 が聖水の方が勢いがあった。彼らはいわば、狂信者であり、ある一定の意志の元に進化しているものだった。 地球のあらゆるところで、地球の水は変化を遂げていた。地球の水は聖水に飲み込まれていた。そして、聖水へと変化していった。 SF小説■聖水紀■(1990年作品) 作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所 http://w3.poporo.ne.jp/~manga/pages/ |